「落陽」(2/3)/月乃助
 
きな屋敷を眺めては少し妬ましくなる。
 駐車場まで来ると左手の奥に人気のない気象台の白い建物が、ひっそりと立っている。
 この丘に作られたのは、もう何十年も前の話。今この気象台は使われず、ただ、昔の仕事の名残をその丸いドームの形が見せてくれている。娘はどうしてか、この役目を終えてしまった気象台が、忘れ去られた空き家、年老いて引退した老父のようには思えない。
 この小高い丘の上から空や雲や天気を観察する代わりに、今ではしっかり町を見ている。そして屋根の下に巣くう人々の暮らしを眺めては、ほくそえんだり、はらはらしたり、悲しんだりしている。この丘の上から。<ケイの通りに住んでいるあの日本の娘は、恋に落ちたんじゃな、がんばりな>と、そんな具合。
 気象台の横のごつごつと張り出した岩の上によじ登るようにして立ちあがれば、海峡と町の景色が突然足の下にひろがる。そしてその先、海峡の向こうには、白い岩山の山脈がゆったりと雲の下に姿を見せ広々としている。(つづく)

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