幻視/三森 攣
ノトーン
ナイフの冷たさと彼の優しい笑顔は
何故か心地よいほど合っていて
見とれる間に彼はやってきた
彼の口が私の名をなぞるようかすかに動く
睡魔はいよいよ強く
私はまどろみの中で彼を見た
彼の手がゆっくりと持ち上がり
ガラスの向こうで見下ろす月に吸い込まれかけ
その手に持ったナイフは私の首元を静かに撫でて
もう一度彼の口が私の名をなぞり
感覚が静かにとろけてゆく
そしていつもそこで目を覚ます
夢の中で眠りに就いた私と入れ代わり
私は朝日の中で優しい彼の微笑みをまぶたに残す
明日は彼が私の夫になる日
私は目を閉じて
もう一度、最後の眠りを味わった
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