幻視/三森 攣
 
目線の先の空に暖色の廊下が浮かんでいる
夕時を回った薄暗闇の淡い夜には
不思議なほど似つかわしげな灯りの配列が伸びている

窓に映る背後の景色を
私はぼんやりと座りながら眺めていた

いつからそうしているのか
何を考えていたのか
暖色の灯りを透し見ていると
頭に優しく麻酔を打たれたように
心地よい眠気が訪れる


そう
この瞬間だ


いつもそう


気だるい睡魔が視界を薄絹で覆う時
廊下の奥から彼がやってくる

彼は優しい顔で
ガラスの向こうの私に微笑み掛けて
ゆっくりとやってくる

手にはいつもの冷たいナイフ
柄は黒くて刃先は白いモノト
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