『美津』のはなし/亜樹
 


 地下鉄のホームはいつも妙な匂いがする。田舎育ちの美津には、あまり馴染みのなかった匂いだ。地下鉄のある街に引っ越して、もう3年がたとうとしているのに、未だ慣れない。
 地下鉄に乗るとき、いつも美津が中学生だった頃、テレビでどこぞのコメンテーターが、「地方はどこの家庭にも一人に一台車がある。随分と豊かだ」などという発言をしたのを聞いた父がひどくしぶい顔をしていたことを思いだす。
 別に、金があるからこおとるわけじゃねえけぇ、と今なら父が言わなかった言葉が、美津にもわかるような気がする。美津もこの街に来るまでは、毎日車を運転して職場へ行った。熱のある日も、書類の作成でろくに眠れていない日も
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