「あざらしの島」(4)/月乃助
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そして、波に、もし女がどこかで、海の声を聞いているのなら、男のことを教えるように頼んだ。海は波よりももっと大きな、人の意志など及ばぬような存在と思うのに、波の方は聞いてくれそうだった。
話を聞いていた男が立ち上がると、アザラシ達はいつもほんの少しそちらを見つめ、また、午後のまどろみに戻っていく。
男は紺碧の波の立つ海峡を眺めながら、女と娘の幸せを海に願い、赤い屋根の家に歩いた。女もまた、別な町で暮らしながらそこで、別な何かを得ているように思えた。そして、それが終われば、男同様この島に戻ってくる、とそんなことを思うのだった。<了>
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