「あざらしの島」(4)/月乃助
町の誰もがそれを知ったとき、多分、それは、男の女への未練だろうと噂した。
女とその娘がどこに行ったのか、町の誰も知らず、男に聞かれても皆ただ首を振るだけだった。
男は、女が灯台のある島の赤い屋根の家に住んでいたのを知ると、今では誰も借り手のないそこへ移り住み、島から町に仕事に出かけた。ベーカリーでパンやペーストリーを焼く仕事だった。毎日、陽も上がらぬうちに小さなモーター・ボートでヨット・ハーバーへやってきて、昼にはもう島に帰っていった。
春、島は一面紫のコロンバインで埋まった。
夏には海峡の蜃気楼を、女もあれを見たのだろうと、そう思いながら眺めた。
リンゴの実がなる秋には、そ
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