「波の声をきいて」(13)/月乃助
度は網なんかにかかっちゃだめだからね。いつも助けてもらえると思ったら大間違いだよ」そう言って、海の方を指差した。
Penneは、それでもためらいHiromiを見上げていた。
「早く行けって」
娘が今度は少し声を荒げると、海鬼灯の繁茂する岩の上を進んで行き、それでも、また、一度止まって、振り向き、そのあとやっと水の中へとするっと身を滑り込ませて行った。
そして、波の向こうに顔を出すと、二人の方に一度顔を向け泳ぎ去って行った。
娘は、アザラシが戻ってくるとでも言うように、いつまでも岩の上で静かな海峡を見つめていた。
Sayoは、海峡の遠くにアザラシの頭が一度浮き出るのを見たが、その後は、もう見ることがなかった。
隣に立つ娘の小さな肩を抱きしめた。
母親として娘と一緒に生き、何かを知る、そのためにこの町にいるのかもしれない。
そして、柔らかな陽炎のような光に過ぎ行く夏の潮風を感じていた。それは、また、Sayoに海の声を運んできているようだった。(了)
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