「波の声をきいて」(11)/月乃助
 
が空になったのをしおに、それをテーブルに置くと、そうそうに部屋から引き上げて行った。本当のところは、魚と海獣の臭いに堪らなくなったかららしい。だからか、そんな部屋の中で平気にしていられるSayoを、少し海獣の母親を見るような目で帰っていった。
 Sayoは、部屋の絨毯にしみになったアザラシの汚物のあとに、ため息を付いていた。動物を飼うということは、こういうことかもしれない。下の後始末に苦労するということ。
 セーラの持ってきたビニール袋に入った魚を冷蔵庫の、今ではほとんど隙間もないほどに魚が詰まった棚に押し込んだ。Penneは一日、3キロほどの魚を食べるのが分かっている。すぐに、部屋のドアをノックする音がするので、セーラが忘れ物でもしたのかと行くと、
「Sayo、いったいこの臭いは何?この階の皆が、変な魚の臭いがするって、聞いたら、あなたが魚のバケツを持って帰ってくるって、言うし、変な生き物を背負ってたって、どういうこと?」怒っているミセス・ロスのいつもの濃い化粧の七面鳥のような顔があって、赤い唇を震わせるようSayoに食って掛かった。
(つづく)

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