「波の声をきいて」(10)/月乃助
 
の臭いの元を探しているようだった。陸では水の中ほどの視力はないのだろう。その様を見ながら、アシカのように背を伸ばすような姿は、アザラシにはできないのをSayoは思い出していた。まだ、サポーターをしたままのアザラシは、何か服をきせられた犬のようで、Sayoにはやりきれないのに、娘のHiromiの方は別段頓着することもないようだった。
 左のヒレを体に密着するようにサポーターの下にいれているので、一人では動きにくいだろう。それでも、アパートの部屋を大きな芋虫のような蠕動運動で這い回るアザラシがあちこちのものを倒していくのを思うと、頭が痛くなりそうだった。
 Sayoは、何度も動物の自然の中で生き抜
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