「波の声をきいて」(9)/月乃助
 
は、言われなくても分かっていた。
 漁業省の人間達が、害獣の名の下に岩礁に群れなすアザラシやアシカを銃で殺した時代は、それほど昔のことではないはず。それに、いまだに毛皮にしろ、オイルにしろ、ペニスをとるにしろ、アザラシを殺す理由など腐るほどありそうだった。
 それでも、自分の目の前にいたアザラシは、やはり見殺しにはできなかっただけの話。
 桟橋から振り返ると朝の漁を終えた漁船が数隻、戻ってくる。Sayoは、あれにもまたアザラが乗っているかもしれないと思うのに、それを始めれば切りがない、だから、それを打ち消すように、魚でいっぱいになったバケツの柄を持ち直し、ウォーフに渡された細い橋を音をさせるように上がって行った。
(つづく)
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