祖母の家出 /服部 剛
甦る・・・
*
(ただいま)という声がして
玄関に顔を出すとそこには
(もういやになっちゃった)と明るく言い
戻ってきた婆ちゃんは涼しい顔で
家に上がり、開いた襖(ふすま)を
ぴしゃりと閉めて
自分の部屋に、入っていった。
「えぇ・・・!えぇ・・・?えぇ〜〜〜!!!」
と叫びながら目が覚めた
先月のゆめ・・・
*
あまりの遺品の多さに
最近母ちゃんの手は持病が痛み
僕も日曜の朝から草臥(くたび)れ、腰を床に落とした
亡き人はいつだって
遺された家族に、何らかの宿題を
そのまんまに、置いてゆく
(あんたの嫁さん、見たいねぇ・・・)
生前、見舞いに行った病室で
天井を見ながら呟いた
祖母のひとことが
何処からか聴こえてくるようで
腰を上げた僕は
空っぽの戸棚を
ぴしゃりと、閉めた
戻る 編 削 Point(6)