「波の声をきいて」(7)/月乃助
 
 白いタイルが弾く光の中で海獣は、毛皮に包まれたくたびれたピローに見えた。
 他にどこにも連れて行くあてなどなかった。
 娘のHiromiは、Sayoがアザラシを背負ってアパートの部屋に戻ってきても、さして驚くことがなく、疲れ果てた様子の母親を手伝ってアザラシをバス・タブの中に入れた。
 Sayoは、アパートの古参な住民のミセス・ウィルグリムに、建物への玄関に通じる階段を下がってきたところで顔をあわせたが、説明も鬱陶しく、何も言葉を交わさなかった。
 ただ、半裸に得体のしれない生き物を背負った女の姿を目にし絶句したような老婆の顔に、マネージャーに何か言われそうだと、ノー・ペットをうたってい
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