夜船/古月
 
 明かりの灯らない平屋のバラックが何処迄も続く闇の濃淡の、草海原にも似た街並みの成れの果てを、たたんととん、たたんととん、二両編成の電気鉄道は往く。心寂しい律動が鼓動に同調し、寂しさに胸が絞り上げられるようである。乗客は男も女も一様に俯き、まるで彼の世にでも行くかのように湿っぽい。その中でただ一人、逆さに野球帽を被った少年だけが、鏡のような窓に顔を近づけては、口を窄めたり、頬と目尻を引いてみたり、百面相を楽しみながら、一人けらけらと笑っている。
 何もない夜だった。何ひとつない、暗い昼間のような夜だった。その夜を往く私もまた、何ひとつない夜のようだ。目的地も無く、ただ漫然と、次の乗り継ぎ駅を探す
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