「波の声をきいて」(5)/月乃助
 
 背のほうでどさっと物が投げ出される音がして、続いて、男達の声がした。
「こいつ、どうする」
「生きてんのか?もう、くたばってんだろ」
「さあ、生きてるかもな。海に捨てるしかないだろ」
 Sayoは、そのウォーフの上にころがる黒い影を見て、それが何かを認めると、すぐにもう漁師の男達の方へとずんずんと音を立てるほどに急いで歩き始めていた。
「お前が海に投げたんだと思ってたけどな」
 くたびれた赤いラバーのエプロンをしている方が、そう言いながらその黒い影を足の先でけっていた。すぐ横には、漁を終えたばかりの網を巻き上げたセーナーの船が泊まっている。
 Sayoは、その投げ出された黒い影のす
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