「波の声をきいて」(4)/月乃助
 
庫の中を思い出しては、そんなことを思いながら歩いていた。ウォーフにあるフィッシュ・マーケットはヨット・ハーバーの端にあり、間口二軒ほどの小さな店だったが町でも唯一その日にとれた魚を売ってくれるところだった。Sayoは、時間があればそこをのぞいて、良さそうなものを買って家に帰った。この町に移ってきても味覚や嗜好は変わる事がないようで、肉を食べる気になれない。
 サッカーの練習を終え空腹を訴える娘の、この頃、この町になじんだ様子を思い浮かべながら、旗ざおのようなヨットのマストが林立する入り江のヨットハーバーへ向かって歩いて行った。
 魚を獲ることなど苦もないのに、町の暮らしはSayoに普通の人のよ
[次のページ]
戻る   Point(3)