「あざらしの島」(3/3)/月乃助
 
のかと思う。
 きっと、律儀な人だから、その子をもらい受けに女の所にやってくるように思う。それがために、女は今も娘を手元においているのかもしれない、またいつか、その男と再会する理由を持っていたいがために。
 女は男を愛していたと、そんな時には真剣に思い、あの頃は普通の女の顔をしていたのかもしれないと、自分の過去の姿を思ったりする。
 ある日、夢想から覚めると、女の耳に海風の声がしてきた。
 それは、「さあ、もう行くかい。時はすでに、今…」女は、その声を聞きながら、うつむき、次にくっと顔を上げると、海峡とは反対側の森の中にある町の景色に目をやっていた。
 海峡からの潮風は、女の長い黒髪をひと時弄ぶように舞い上げた。(了)

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