無題/影山影司
 
 家に帰ってまで電気の光を浴びるのは嫌いだ。夜は夜らしく、暗くあるべきだと考えている。部屋の隅の卓上電灯のタッチパネルを一押し、書き物程度の光が、机の上から漏れ出しあたりに飛び散る。部屋の真ん中にある一抱えの熱帯魚用水槽には夜が来れば自動で明かりが灯る。
 手入れを怠った水槽は悲惨だ。中の水は常温より少し高め、指を差し入れるとぬるめの温度に温もるよう設定されていて、表面に微かな油とカスを浮かせている。まるで一週間分の荒いものを溜め込んだキッチンの流し台にそのまま水を溜め込んだようだ。
 水槽の硝子表面には、へたくそなグリーンのスプレーを吹いたような苔が生えている。ヒゲの様に水流に揺られて、ただ
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