ぜんぶあげるよ/ゆえづ
 

 お外が嫌いなイエネコは家の中だけがその世界であったために、野良猫たちに比べいのちに触れる機会が極端に少なかった。それだけに異様な繊細さも見せた。家族の靴音をそれぞれ聞き分け、誰かが帰宅するのを何より素早く正確に察知し、帰宅した者を即座に出迎えるのが得意であった。扉の開閉音がすると、瞬く間にしゅるしゅると階段を滑り降り玄関へ躍り出る。そして世界の睨みつけている扉が開かれるたび、私たちは喉をいっぱいふるわせたまっさらないのちに出会うのだ。
 ただ、イエネコはお留守番があまり得意ではなかった。家族の声や影やわずかな生活音、それを見失うと極端に動かなくなる。まだ別のいのち(家族)を認識しながら手探
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