「樹室」(きむろ)/月乃助
ーキを焼いては、泳ぐほどに
シロップをかけて食べるのですね
それが、どれほどの樹の苦しみなどかもしらずに
幹に取り付けたバケツに
一滴一滴と、血をおとすように
知らずに こんなにも
ためられていたのです
だからでしょうか、
ほんの少しの言葉をのみこんで
ちいさくなっても
空隙は、肌からゆっくりと骨にとうたつしてしまいます
長い年月がすぎゆき
力なく倒れれば
浸蝕された朽ちた倒木の
実もなさずに横たわる、
それも、今は虫達の、菌糸類のために生きれば
ここにいる理由ともなるのです、でも…
―― もう、がまんするのはやめませんか? 【enough】
室のできた樹は、
失った自分がそこから抜け出し、
どこかへといってしまった
虚空のひろがりでしかないのです
だったら、わたしはもう
ここにいるのでは ないのです
自由に飛び交う 秋色にそまる森の街の
そのなかを、平気な顔で歩いています
今一度固くなった骨の
そのおかげだと
感謝しながら 【∞】
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