タイトル/藤原有絵
本屋で居合わせた人の顔を見て
奇遇ですね
と、会釈こそすれ
とりたてて話す事も無く
本の波に逸れていく
濡れそぼった傘の先
伝う雫さえ落ちぬ間に
外は雨
早い台風の予兆をはらんだ
オモチャみたいな折り畳み傘は
「雨風」を凌げない
降る雨の力に負けるときを
待って、逃れて
早足で駅へ向かう雑踏に混じって
むせ返るような季節は過ぎたので
構内には人々が集めた仄かな水の冷気で
いっそうひっそりと沈む鼠色のホーム
早く帰りたい人ばかり
ゆらゆら疲れてギシギシの電車が滑り込んでくる
薄い紙袋から透けたタイトルは
始めから冷たいから気が置けない
仄
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