七月、あなたは海にいる/北野つづみ
 
海に
忘れ物をとりに行っているあいだに
植物はそろりそろりと
水を探して気根を伸ばしている気配
あなたは海辺をさまよいながら
まぶたの下から不安げにそれを視つめている
あばら骨が上下して呼吸は
羽ばたく苦しみが静かにくり返され
胸の上に組んだ手はぴくりとも動かず
(動かせず)
河の向こうではない
橋を渡るのでもない
どこまでも平らで
地続きであるところにある植物の
その、白い花が満開になったら
あなたは逝かなくてはならないのだから
海へは行かないように
と、どれほど気をつけても
波は足を濡らし
想い出をさらっていくので
熱でとろけるバターみたいに
抗えない
(ああ、それはだれだって等しく)
とろとろと海辺から
花の蕾が少しずつほどけてゆくのを
あなたは今日も
まぶたの下から視つめている
わたしも視ていますから
側にいますから と
ベットサイドに立ちつくす七月
あなたはいま、海にいる



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