鉄になりてえ/餅月兎
 
俺の手に胼胝がある
ひい、ふう、みい…五つの大きな胼胝がある
ヤスリヤットコタガネクサビカナヅチ
彼らと取っ組み合ってきた部分が
硬く厚く丈夫になってゆくように
鉄と馴染んでいずれ鉄になる俺の手
けれども
俺の心はどうだろうか
ヤスリで擦られ
ヤットコで?まれ
タガネで彫られ
クサビを打ち込まれ
カナヅチで叩かれても
一向に丈夫になってくれない
鉄になんかなりそうもない
どうしたら強くなるのだろうか
事ある毎
いちいち痛がったりしていたくない
詩とか書かないでいいようになりたい
涼しい顔で撥ね返したい
蹴散らしながら突進したい
薄暗い工場(こうば)の片隅で
年季の入った工具と
黒い油染みに汚れた手を眺めながら
「鉄になりてえ」と呟いた
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