ループ/A道化
 

夜のうちにアスファルトで開き切った蛾は
気が付けば西へと影をこぼし始めている
そのことに気付かない蛾は
何事も無かったかのように目を置きやって
何事も無かったことになってゆく


今まだ形のあるうちは影だけが形を惜しんで
周りを半周だけゆっくりとターンする、と
辛うじて蛾であった最後の一日が終わる
気が付けば東へと影をこぼし終えている
そのことにもう蛾は気付かない


そしてもうどこへも行かない
影をこぼしたアスファルトごとひとつの夜となって
気が付いたときには最初から何事も無かったことになっている
そのことにもう誰も気付かない
ただ、太陽が


ただ太陽だけが踊り続けるのだ
あらゆる影の残りの半周を空へ空へと引き取って
あらゆる翌日をただ太陽だけが踊り続ける、それがいつか
何かが辛うじて私である最後の一日となる、ああ、それを
寄り添いながら待つ影が既にある


寄り添い合いながら
ときおり、目が合う
こっそり、笑い合う


2009.9.26.

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