くしゅくしゅのむね/竹節一二三
 
むねがくしゅくしゅいたします
キャスケットに薔薇の花をつけて
襟を立てて真っ赤なスカートを膨らまし
人の多いところに行きたい気持ちでございます
右手には金魚
左手には白いパラソルを握り締めて
いちぶのすきもなく歩きたいのです

あたくしのとおったあとに
赤い花びらがひらひら咲くように
あたくしのはいた息が
赤く世界を染め上げるように
おんなもおとこもそれいがいのひとも
みなあたくしを振り返るように

けれど
いまのあたくしは
洗い髪をながし
ミッキーマウスのぼろの寝巻き
お化粧もしていないし
むだ毛がぼうぼうはえております
恋人からメールは帰ってこないし
仕事も終わらない
まゆとまゆのあいだにしわがよって
まるで鬼のような顔
だから
むねがくしゅくしゅするのです

ゆめのなかでは真っ赤なスカート
真紅のべにをひき
白いパラソルを持って
闊歩いたします
まっすぐなあたくしを保つために
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