米を、入れる。 /服部 剛
 
「コシヒカリ」の袋を抱え 
米櫃(こめびつ)の入口へ、ざああああ 
と無数の米粒を流しこむ 

その音を聞いてるうちに 
無数の米粒の一つ一つに 
無数の顔が浮かび上がり 
ふたつの手を重ねる 
胸の内側に  
ひとつのいのりが、生まれる。 

ざああああ、と米櫃の入口へ
流れこんでゆく 
数えきれない米粒達を 
遥か昔の人々も食べて来て 
幾世代もの遥かないのちは繋がれて 
今・ここにこうして僕は、生きている。 

空っぽになった 
「コシヒカリ」の袋に 
ひと粒、米の弾ける音がした。 

そのたったひと粒が 
何故か無性に愛しく思え 

最後のひと粒を 
指でつまんで 
米櫃の暗闇に、入れてみた 







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