月の住人 /服部 剛
 
わたしの好む世界は 
少々浮世を、離れています。 

月の世界に住んでた頃の 
懐かしい夢を今も時折見るのです  
月の地上の遠い夜から 
宇宙にぽつんと浮いている 
青い惑星を眺めては 
テレパシーを受信するよう 
あなたの名前を、呼んでいます。 

月の世界に住む者の
たった一つの願いのような
その声を胸に隠して 
仮面を被ったわたしは今日も 
いつのまにか目を覚まし 
地球の人の素振りで群衆に紛れ 
地上の道を、往くのです。 

ですからわたしの足どりに 
重力などはありません 
(地面から、踵が微かに浮いてます) 

いつか「無重力の国」を 
地上につくる、という 
古びた計画書の紙切れが一枚 
わたしの鞄に、入っています。 







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