暗くあたたかい所へ/小林 柳
 
僕は 海のそばに住むことにした

十月の浜は ひとけがない
足跡もなくて 夏よりきれい

海の家は ほったらかしで
風鈴がやたら 鳴っている

冷たい風に ゆれる
ガラスの音で 空気がゆれる

深い夜を渡る 夏の波紋
見えない今は よく聞こえる

ゆるいシャツを抜ける 冷たい秋風
潮の匂いが 漂う

月はなんだか ぼんやりとして
星座どころか 飛行機もいない

サンダルを脱いで 裸足であるく
湿った土が すっ と すいつく

水面(みなも)のわずかな 光を見て
海の方へと あるいていく

寄せる波が 足首を洗う
還ってきては 膝を洗う

服を着たまま 海に入る
風がなければ 温かくて

抱かれているような そんな気分
頭のさきまで 潜る

中は けっこう暗いから
外と 大した違いはない

ゆっくりと 水をかいて
すこし泳ぐと 海の底

まるで いかり みたいに
じっと そこにいたい

無口な 魚たちと
やわらかな 泥の上

いかりみたいに


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