向背/百瀬朝子
もしもなんて
所詮どこにもない
ここに生きている事実はくつがえらない
わたしたちは観念して謳歌するしかないのです
疑いも醜い感情も溶かして
夢の軋む音に耳を澄ませて
わたしを引き止める愛しい手を
ほどいて進もう
この手で選んだ証明
幸福が輪郭をあらわす
誰も傷つかないように振舞っても
偽善だって言われるくらいなら
悪い人間になりたい
正しさなんてわからない
わたしが選んできたひとつひとつは
本当に心の底からほしいものだったか
たとえ正しかったとしても
選べなかったものたちの方が
大切だったんじゃないか
そんな気がし
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