向背/百瀬朝子
 
もしもなんて
所詮どこにもない
ここに生きている事実はくつがえらない
わたしたちは観念して謳歌するしかないのです

疑いも醜い感情も溶かして
夢の軋む音に耳を澄ませて
わたしを引き止める愛しい手を
ほどいて進もう
この手で選んだ証明
幸福が輪郭をあらわす

誰も傷つかないように振舞っても
偽善だって言われるくらいなら
悪い人間になりたい
正しさなんてわからない
わたしが選んできたひとつひとつは
本当に心の底からほしいものだったか
たとえ正しかったとしても
選べなかったものたちの方が
大切だったんじゃないか
そんな気がし
[次のページ]
戻る   Point(5)