三越の木馬/月乃助
きあげる 風の音
セミの鳴くコンクリートの壁の 影たち
すべてを見つめる 夏休みの終わりという
持て余す八月
細い肩紐の小さな背は、
おもちゃ売り場の やんちゃに 喧騒を駆け抜け
エスカレーターの滝をさかのぼる ミニ・ギャング
すべては、帰結する屋上に
焦点をあわせて 木馬を目指す
弧を描く足の その太い首につかまり 振り落とす
陽光に暑さと午后の眠気にうずくまる
短くちぢまりきった 影
木馬を揺らす母の横顔は、
若く美しいまま
いつになっても 消え去らない
その背に大きくなった子は 空を駆け去り、
ビルの地平線に 海を 越える
辿り着いた地から
わたしの知るよしもない
母の誕生した時という 夢想を
心によびさまし 送りかえす
いつまでも ひるがえり
変らずに まるく環を描くワンピースの
焦がされる屋上に 木馬を駆らしてきた 母と子の
いまだに
揺れる二人の軌跡が、
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