喫茶さぼうるにて ー神保町探訪記ー /服部 剛
 
間で、黒い傘を被った洋燈が、木目のテーブルを照らしています。白髪のマスターは、青年だった57年前からずっと、この店で働いて来て「今迄来ていたたくさんのお客さんの顔が、今も目に浮かぶなぁ・・・、ここはね、珈琲も売るけど、夢も売ってるんだよ・・・」と呟きました。僕は自分の詩集をマスターにプレゼントして、マスターは早目に仕事を終えて店を出た後、丁度僕が好きな作家が座っていた席が空いたのでそこに座ると、若い店員さんが「マスターからのサービスです」と、美味しいアイス珈琲を持って来てくれました。

 茶色い煉瓦の壁の一つひとつに、今迄訪れた無数のお客さんの文字が書かれていました。その一つひとつを眺めると、それらは七夕の短冊のように思えて来ました。僕が働く老人ホームの職場も、この店のように人と人のふれあいが、いつかかけがえのない思い出になることを願いながら、僕はアイス珈琲を味わい、ひとときの間、瞳を閉じていました。 







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