大波止/こだま千鳥
ときおり、なまえを付けてきた
今、見えているものたちのこえ
ひとしきり、なまえを呼んでいた
昔、とおりすぎた波止場のすみ
正午を知らすサイレンと
赤と白の煙突に泣いた
こわか。よそわしか。となまえを付けた
石畳の隙間にも、呼んだ
わたしのなまえをくれてやる
そしてわたしのなまえを呼んだ
石畳の隙間はわたしとおなじ
あおいそらはあおいままで
こどもたちに伝わったろうか
8月のあさから鳴り止まない
それを何と呼ぼう
9月を迎えたけさのあおは
骨まで燃え尽きたいのちたちの
なまえをしきつめたいろみたい
石畳の隙間、じいっとながめる
しらないなまえを呼べなかった
戻る 編 削 Point(2)