幻人形/within
 
喜んだ。
でも次の日、父さんは動かなくなった。わたしは、動かなくなった父さんをベッドに残したまま、裸足で家を出た。随分爽やかな朝で、ひんやりと冷えたアスファルトの上をてくてく歩いた。そのうち雨がぽつりぽつりと降り出し、誰も通らない道をひとり歩きながら白く濁った空を見上げると、空も動かなくなった父さんのことを悲しんでいるようで、次第に打ちつけるような強い雨に変わった。人の往来はなく、時折水しぶきを上げて通り過ぎる車があるだけで、雨に打たれるばかりで、灰色の湖沼に沈みこんでしまったようだった。
 バス停の待合所で雨を避けていると、少年がわたしの横に現れ、ほら、これ、と白いハンカチを渡してくれた。ハ
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