トンカチ君の甚だ壮絶なる青春/ふくだわらまんじゅうろう
トンカチ君は
鍛冶屋の息子だった
鍛冶屋の息子だけれど
大工の倅ではなかった
そして、臆病者だった
あんなことが、あるまでは
あんなことがあるまでは、我が懐かしのトンカチ君は
臆病者だったのである
トンカチ君のかわいい彼女が
ジャガーに乗った男に寝取られちゃったのだ
そんなことが、あってからというもの
トンカチ君は
巷でジャガーを見つけたなり
石ころ、ぶん投げるようになったのだ
深緑色のジャガーのドアがへこみ
濃紺のジャガーのドアミラーが欠け
黒いジャガーのフロントグラスが割れた
トンカチ君はどうやら世界中の
ジャガーに向けて怒りをぶつける
つもりでいたらしい
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