1Q68/ふくだわらまんじゅうろう
その年の
6月22日のこと
人知れず
ひとつの流星が砂漠の真ん中に
落ちた
その流星の息を飲んで
二人の子供が日の本の国に生まれた
ひとりは女の子で
後に有名な小説家になり
ひとりは男の子で
後に無名な詩人となった
その流星の名を誰も知らないように
宇宙の営みの真意を誰も知らない
何のために太陽は燃えているのか
どういうつもりで月は満ち欠けするのか
そんなことを云々するよりは
より効率のよい札束の積み上げ方を学ぶほうが
現代の人類においては重要であると看做されているのであるけれど
その流星の名を知らなかったことは
その年における人類最大の
不幸であった
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