左手で書いたノート/光井 新
 
「それはダメ!」
 そんな声を出してしまったものだから、いぢわるな彼はますます面白がって、手に持っているノートをパラパラと眺めた。
「うわー、きったねー字だなー、いつの?」
「十五歳の時の」
「小学生が書いた物かと思った」
「しょうがないでしょ、まだ字を書き始めたばかりだったんだから」
「何それ?どういう意味?」
「丁度右手が動かなくなった時期に、左手で書いてたの」
「あー、なるほど、闘病日記みたいな?」
「この右手はね、病気じゃなくて怪我が原因なの。闘病日記とか付ける暇も無く、すぐに動かなくなったものなの」
「じゃぁリハビリ日記ってヤツだ?」
「まぁリハビリっていうか、左手
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