一秒前/月/そして現在/夏嶋 真子
空には下弦の月がのぼりはじめていた。
「まって、地球と月との距離は?」
「38万4000km 1.28光秒」
「あの月は、一秒前の光?」
「そういうことになるね、一秒前の過去。」
僕の答えに、
君は月を抱いたまま物思いに沈んだ。
長い沈黙。
星が2つ流れたけれど、願い事は思いつかない。
やがて、ぽつり、ぽつりと話しはじめた君の言葉は
僕を通り過ぎ月に向かう。
「一秒前は、何をしていたか考えていたの。
一秒前は、・・・一秒前は、・・・
一秒前のことを考えると、考え終わる前に一秒たってしまうから
いつまでたっても、一秒前は、・・・から先に思考が進め
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