紫陽花/shu
 
いなのか。
しんと静まり返った境内にシャッター音が響く。
二人は撮っては花影に隠れ、本堂の様子を窺う。

「ほっほ ほっほっ」

アオバズクの鳴き声をゆめこが真似る。
その口元がおかしいので笑ってしまう。
声を殺して、くすくす笑いあう。

「わたしは何色になった?」
「え?」
「あなたは酸性?アルカリ性?」

まじまじとゆめこの白い肢体を眺める。
いたずらな瞳で、べぇ、と舌を出すゆめこ。
その薄紅色の濡れた舌先にいつのまにか青紫の花びらがのっている。

私は本堂の上に浮かぶ月に視線を移す。
きっとゆめこは地面に咲く花じゃない。
口には出さずに、私も紫陽花の花びらを捥いで、舌にのせる。

照らしているのかいないのか、そんな月明かりの柔らかい光の中で
ふたりはいつまでも紫陽花の影の中に揺れる自分たちの影をみつめている。






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