たまごがけごはん/唖草吃音
そしてなにより、僕たち家族がこの外食の日を明るい気持ちで
迎えられなくなっている。
ああ、この三週間は豆腐料理が続いている。冷奴、おから、湯豆腐。
今日は食べたい料理を選ぶ日だ。
決まったらいつも、お母さんがそのお家に電話をしてくれる。
僕の家族はいつもより真剣な眼差しで、目を皿のようにして電話帳を見ている。
実はそれには理由があって、なぜなら今日は僕の誕生日だからだなのだ。
しかし微妙な気分の誕生日だ、心から喜べないよ。
そりゃお父さんもお母さんも小言のひとつも言わないで、
朝には「おめでとう」を言ってくれたけども、
実はもう、半年もの間、僕の家はよその家族を招待していないのだ。
「もしもし、○○さんのお宅ですか?」
お母さんは受話器を持つと、話し始めた。
「お宅のエビフライを食べにお伺いしたいのですが?あ、わたしは「たまごがけごはん」の佐藤です。あ、はい、はい、ではよろしくお願いします。」
お母さんは静かに受話器を置くと、僕の方を向いてニッコリと笑った。
エビフライは僕の大好物だ。
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