嬢とジョーと時々モヒカン/影山影司
 
母親にも同じ事をしていたのか。僕や、人間には分らない言葉が、お前達、猫族にあるのか。試しに植木鉢の淵にいるジョーの兄弟に、片手を振ってみると、驚いて影に隠れる。ジョーは、頭は悪いが、勇敢であった。色は白いが、彼なら白黒の兄弟にもやられずに生きていくだろう。
 遠くで車の走る音がした。

 ジョーから手を引っぺがして、立ち上がる。会話が終わったのだ。親猫も察したように「あんた達、寝るわよ」と一声鳴いてガレージのバンの下へ潜り込んだ。それにつられて子猫達も暗がりへ走る。
 僕も自転車にまたがって、黄ばんだ街頭の生える路地裏をキコキコと帰る。
 夜は一層暮れて、空は紺を通り越した黒であった。


 家に帰ると、母が「遅かったのね」と言う。「猫と遊んでいたのです。道端に、猫の家族がいまして。可愛いんですよ。一杯遊んでやりました」
 母はちょっと間を置いて、「しっかりと手を洗いなさいよ。家の中に猫の毛なんか落としちゃ駄目よ」と言って台所へ。「分ってるよ」と僕もそのまま洗面所へ引っ込んで、話はそれで終わる。
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