「消夏のとき」/月乃助
思い出は
時に抗(あらが)う逆行性
たった
一文字の喘(あえ)ぎが、
砂時計の上下を違える
するり、と開いた物語の行間に滑り込む
望んでもいないのに
わずかな隙間からむしりとられた
蹂躙(じゅうりん)は、もう壁一面
天井四方さえも覆いつくしている哀惜の鱗模様
嫌になって
消し去ろうと、終わったはずだから
時間を塗りつぶして忘れた
苦い漿果(しょうか)の味
それを一つにした情実は、今またなおさら
成分元素に分解したはずの分子に粒子を、
その狂恋の果実を、唇に
黄泉帰(よみがえ)らす
舌にし
険しく
焦げる
痛みや悲しみから
逃れようと
来ることなどない
消夏の訪れを待っていた
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