panopticon/ケンディ
」
独り言という形式ではあるが、不特定多数のギャラリーに
向けられていることもよく分かっていた。
バスタブから出るとき、必ず彼女は頭から拭いていく。
その時もよく、「水滴は床に落ちて行くわ。だから、
足から拭いていくよりも頭から拭いていったほうが、少しは
乾きが早くて合理的だわ。」
こう言い訳をした。しごくもっともである。このように、家の中でも、
少しでも他者と異なるであろう行動、発言などを行う際、
彼女はその合理性、根拠をいちいちモノローグした。
歯ブラシの構え方、眼鏡の拭き方、時計の置いてある位置等。
それらをいちいち説明した。だがそれは独り言である。
本を読んでいるときに、しくじって本が勝手に
閉じてしまうと大変である。30分は
延々とその原因について独り言をすることになる。
先にも述べたが、これは彼女が望んで自ら形成した
環境である。この一望監視施設(Panopticon)は。
インターネットから入手した画像から判断するに、
私はそうだと思っている。
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