まろやかな喪失/A道化
 
 あの夜、何故窓を開けたのかわからない。
 雨が降っているかを知る為かしら。蛙が鳴いているかを知る為かしら。
 それとも、可愛い可愛い風鈴たちを確かめる為?

 酔っていた。

 とにかく、私はその夜、自室の南側、生成りのレースのカーテンを捲り上げる、と、風鈴たちの一つ、竹製のものがカーテンの動きによってコンコンコン…と鳴る。カーテンの向こうの磨り硝子の窓を左へ押しやってさらに網戸も左へやる。すると、埃っぽい簾があって、その上部に、お気に入りの風鈴が絡まっているのに気が付き、
 …解かなくちゃ、
 と。

 揺れる、複数の銀色の金属棒、音の鳴るその部分
[次のページ]
戻る   Point(1)