Granny Smith/月乃助
 
海峡は深奥の
夏をひけらかす驕りの紺碧
染め上げられた
港は青ざめた積み上げられた壁の町

蔑(さげす)みの海猫の声は鳴き止まず

人の住む塵界に卦象を眺めては
エーテルに輝く箴言(しんげん)を口にする
妖女は島の痴れ者

赤い屋根
朽ち果てた肋屋(あばらや)に
老木の真摯な林檎を育てた/育てている

痴呆の青林檎は、気づかず
目の前でローズ・ヒップさながら青い実を膨らます

(クレマティスの紫風車の回る影)

気付いた林檎は
次には悪意にそれを止めていた
妖女はありとあらゆる塵埃を集め、燐とカリウムと窒素(P・K・N)
これを必ずやるからと
林檎の皺だらけのその肌に参差(しんし)な指を這わせる

魔薬の密約を交わし
人の心を操る
グラニー・スミスのアップル・ジェリーを
ほぼ
手中にしたと心算に
我慢しきれず、醜くほくそえんだ

戻る   Point(0)