天道虫/新崎
 
 闇夜に赤い何かが舞う

 凝らしてみると それは天道虫(てんとうむし)

 赤に斑点の喪失を携え おまえは飛ぶ

 何を求めておまえは飛ぶのか

 失われた赤を求めて おまえは飛ぶのか
 
 他に赤もなく おまえは独り飛ぶ

 ふらふらとぶれながら おまえは飛ぶ

 寂しくはないのか こんな闇夜に独り

 おまえはこんな夜に飛ぶべきではない

 おまえは己の名を忘れてはいけない

 御天道様(おてんとさま)の御加護がある時にのみ

 おまえの喪失は映ゆる漆黒となるのだから

 赤をいっそう引き立てる黒になるのだから

 故に御天道様の御隠居は おまえの遊泳にとって
  
 厳かな桎梏(しっこく)となるべきなのだ

 闇夜に飛ぶおまえは ひどく悲しい

 おまえは己の名を忘れてはいけない
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