かさぶたの記憶/あ。
 
大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある

転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
かろうじてそこにとどめている

時間軸は定まっていないのに
伴う事情だけはやけに鮮明で
赤い血と一緒に出て行けばいいのに
すぐに固まっていつまでも残って

起き上がったら一寸先も見えない闇
東西南北どっちなのかもわからない
方位磁針はなくしてしまった
膝を抱えて小さく丸まっているのは
多分その時からだろう

誰かの声が聞こえた気がして振り返る
見つけて欲しくて手を伸ばすと
きっと最初からここにあった窓が開いて
涼やかな風とふわふわの光を運んできた

見つけてもらえなかったんじゃなくて
放り出されたんじゃなくて
自分で隠れていたことを知った
本当はすぐ側だった扉を押して外に出ると
声のするほうへ走って行った

かさぶたはいつの間にか綺麗になっていた

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