みどりのころの…/ゆびのおと
 
たけよ
わかたけよ

雨上がりに匂い立つ
若草の薫りよ

今日一日の棘を洗いおとし
網膜の奥底にしみつく
灰の濁りに
若草みどりの輝きで
健やかさの幻影を与えたまえ
水辺の匂い
マキ貝のつぶやき
いるかの信号
遠く北の海で流氷に押し流されたつがいのクジラが
鳴き交わす音
声。声。声。

意匠に満ちた。
悪意に満ちた。
嘆きに満ちた。
…喜びに満ちた。

大気に満ちる信号よ

わかたけよ。
青々とのびやかに葉を茂らせこの季節ならではの
湿り気と哀調で
たおやかに幻影を誘う。
わかたけ、の、葉陰よ。

私はすでにその世界の
住人であるものを。



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