バラの花びら/キエルセ・牧
 
そうこうしているうちに
定期券などというものも
すっかり使わなくなったと彼は言い
ひとさし指を使って首をかいた
それで生活はだいじょうぶなのかと私がきくと
どうもこうも
生活などというものではない
お腹が空いたことを考えないために
よく公園で絵を描いている
とにかく人からどう見られているかが気になって
それでよく顔を洗っている
そのようなことに
大体もっと早く気付くのが大人であって
親や先生が教えてくれるのは
なんだか関係ないことばかりだったと言う
ああ俺はもうだめかもしれない
そう言って彼は私にバラの花びらをくれた
いい匂いのする おみやげだという
そうかと思って私は彼にタバコをすすめ
近くにハローワークがあるけれど
住所はあるかと聞いたのだ
二人の間の沈黙はタバコとバラの匂いがしている


09.6.6

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