海のかなたに/いすず
いくら泳いでも、泳ぎきれない蒼の彼方
ちいさなブイが心細そうに、ゆらゆらとゆれている
あの水平線の彼方には、なにがあるの?
たずねても、なにも答えないあなた
蒼の色の底には、魔物でも住んでいるかしら
どこからかやってきて、奪い去ってしまうの あなたを
そのごく澄んだ透明な波のうちには、研がれた牙でもあるの?
なにも答えない、なにも答えないあなた
あなたの広い背中に腕を回しても
そのあたたかな肌にくちづけしても
もう、答えなど分ってるかのように
あなたは吐息をもらすばかり
ねえ
もう一度なんていわないから
夢なんてもうねだらないから
でも
あと一回だけでいいの やさしい嘘をついて
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