さかなの目/夏嶋 真子
 

人の耳にはピチピチなんて
明るい音ではねる鰯の水揚げ


にぎわう港から鰯そのものへ視線をうつせば
全身でわななく声が 流線形のまま突き刺さる


何万もの銀の鱗が震えている


 帰りたいの 帰りたいの
  お願い帰りたいの 海へ


瞼をもたない魚の目は 
死を正確に凝固させ空気に晒されている

その目で最期にうつしたものは
彼らの世界にないはずの空/この世の果て

白濁するほど 透きとおっていく命の純度



やがてわたしの血肉になる鰯


 帰りたいの 帰りたいの
  お願い帰りたいの 海へ


そしてわたしの血をめぐる声



  死んだ魚の目に値する生を
   わたしは生きているのでしょうか




わたしの背中で銀の鱗がふるえている



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