さかなの目/夏嶋 真子
人の耳にはピチピチなんて
明るい音ではねる鰯の水揚げ
にぎわう港から鰯そのものへ視線をうつせば
全身でわななく声が 流線形のまま突き刺さる
何万もの銀の鱗が震えている
帰りたいの 帰りたいの
お願い帰りたいの 海へ
瞼をもたない魚の目は
死を正確に凝固させ空気に晒されている
その目で最期にうつしたものは
彼らの世界にないはずの空/この世の果て
白濁するほど 透きとおっていく命の純度
やがてわたしの血肉になる鰯
帰りたいの 帰りたいの
お願い帰りたいの 海へ
そしてわたしの血をめぐる声
死んだ魚の目に値する生を
わたしは生きているのでしょうか
わたしの背中で銀の鱗がふるえている
戻る 編 削 Point(15)