告示・通達/ケンディ
文句をたれたのです。
ステートメントだから、きっと正式な文句だったのでしょう。」
そう言った後、彼はくぐもった笑い声を上げた。
笑いが激しかったので、抑えるのに必死だったのか
額に汗がにじんでいた。
笑いがおさまった後、事務員は
「告示・通達の冒頭で、
『彼の眼は私を見ていた。
時折彼は、口元に運ぶコーヒーに目をやった。
だが、コーヒーに反射している彼の眼も
私を見ていた。』とありましたね。
賢治のこの詩にも『一瞥』が出てくるんですよ。
『しかればじつに小官は
公私あらゆる立場より
満腔不満の一瞥を
最后にしばしおまへに与へ
すみやかにすみやかに
この山頂を去らうとする』
とね。」
私は、何が言いたいのか、と聞いた。
「それだから、私の冒頭のまなざし(コーヒーに反射した
まなざしを含む。)も、公私あらゆる立場からの
不満の一瞥だったということにすべきだと思うのです。
文脈の効率を考えますと。」
彼は付け加えて言った。
「いわゆる遡及効ですよ。」
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